月の白い面に宿る兎は、今日も杵を振り上げ、不老不死の霊薬を搗いている。その音は「ぺったん、ぺったん」と宇宙の果てまで響き渡り、虚空に揺蕩う星々はそのリズムに合わせて瞬きを繰り返す。遠い昔、まだ月が地球のそばで産声を上げた頃、神々は月の面に一匹の白兎を遣わした。その使命は永遠に続く――不老の薬を搗き続け、宇宙の時計としての役割を果たすことだった。兎の名は「望月」といい、その白い毛皮は星空を映して銀色に輝いていた。
望月が杵を一振りするたびに、宇宙のどこかで新たな生命が芽吹いた。そのリズムは宇宙の根本的なビートであり、星の誕生と消滅を司る根源の音楽であった。しかしある夜、望月は奇妙なことに気づいた。虚空の星織り人が、月の縁から静かにこちらを見守っていたのだ。星を紡ぐ者たちの中でも最も古い存在が、月の兎の仕事に深い関心を示していた。望月は杵を止めることなく問いかけた。「あなたは何故、いつもここから見ているのですか」と。
星織りの者は静かに微笑んだ。「お前の杵の音こそが、私の紡ぐ星座の間隔を決めているのだよ。ぺったん、ぺったんという音に合わせて、私は次の星を置く場所を知る。月の兎の仕事がなければ、星座は乱れ、魂の道は消えてしまう」。望月は初めて、自分の孤独な仕事が宇宙全体を支えていたことを悟った。月の裏側では、かぐや姫伝説の残り香が漂う古宮殿の廃墟がひっそりと佇み、忘れられた物語が霧のように漂っていた。望月はそこで、かつてこの月に来訪した媛姫たちの幻影を幾度となく目にしていた。
時は流れ、ある満月の夜、地上から一人の少女が月を見上げていた。彼女の手には望遠鏡があり、月の表面を熱心に観察していた。望月は薬を搗く手を少し止めて、その少女に気づいた。少女の目に映る月は、単なる岩の塊ではなく、伝説の住処として輝いていた。星織りの者が耳元で囁いた。「あの子の目には、月の真実が見えている。いつかきっと、この物語を語り継いでくれるだろう」。望月は再び杵を手に取り、今度は少し優しく、少し丁寧に、不老の薬を搗き始めた。その音は銀河を超えて広がり、夢見る少女の心に届いていった。
――月の杵の音は今も続いている。望月が搗き続ける限り、星座の道は保たれ、魂は迷わず天へと昇ることができる。そして満月の夜に耳を澄ませば、あなたにもその音が聞こえるかもしれない。